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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)1048号 判決 1968年3月19日

被告 東海銀行

理由

笹川良一が原告主張の約束手形を提出し原告がその所持人であるところ満期に右約束手形の支払が拒絶されたこと。笹川良一は右支払拒絶による取引停止処分(いわゆる手形不渡処分)を免るため右約束手形の支払銀行である被告に対し東京手形交換所に異議申立をしてくれるよう依頼しそのための提供金とするため約束手形の額面と同額の金二千万円を被告に預託し被告は右預託金二千万円を東京手形交換所に提供して異議申立をなしたこと、一方原告は笹川良一を被告として右約束手形金の支払を求める訴を東京地方裁判所に提起し同裁判所は原告の請求を認容する仮執行宣言付判決をなしたので原告は右判決に基づき笹川良一に対する強制執行として同人の被告に対する前記預託金二千万円の返還請求権の差押と転付の命令を東京地方裁判所に申請し同裁判所は右申請を認容し、その命令は昭和四一年一二月二〇日被告に送達されたこと、しかるに右預託金をもつて被告が東京手形交換所に提供した異議申立提供金二千万円は同交換所から昭和四一年一二月一三日異議申立の日から三年を経過したものとして被告に返還され被告はこれを笹川良一の依頼により同人の通知預金となしたが同月一七日笹川良一の申出により右通知預金を解約して金二千万円を笹川良一に支払つていたため前記差押ならびに転付命令は執行不能になつたこと、以上の各事実は当事者間に争いがない。原告は、前記強制執行が不能に終つた現在笹川良一が無資力であるため本件約束手形金二千万円の支払を得ることはできなくなつたこと、そして前記強制執行が不能に終つたのは被告が本件預託金二千万円を笹川良一に返還したためであるがその返還は被告主張のような法律上の注意義務を負つているに拘らずこれを怠つたためである旨主張する。そこで被告が原告の主張するような注意義務を負つていたか否かについて考察する。手形の支払拒絶がなされた場合にその支払を担当する銀行が支払人(約束手形の場合は振出人)の依頼により手形額面と同額の金員を手形交換所に提供して異議申立をなして支払人の受ける取引停止処分を免れさせた場合にその異議申立提供金は早晩返還されその資金を預託した支払人も支払銀行からその返還を受けるわけであるがこの異議申立提供金若しくは預託金に対して当該手形の支払を拒絶された手形債権者がなにかの権利を有することについては格別法律に規定があるわけでもないので、手形支払人がこれを手形債権者に担保として提供したものと認められるような支払人と支払銀行との間の委託に関する約定でも存しない限り手形債権者がこの預託金の上に何かの権利を有すると考えることは困難である。而して本件において笹川良一が被告に本件預託金を預託したとき手形債権者である原告のためにこれを担保とすることを約した事実はこれを認めるべき証拠はない。結局原告が本件預託金二千万円に対しなにかの権利を持つていたことは認め難いといわなければならない。そうすれば原告が本件預託金によつて本件約束手形金の支払が得られるように被告において原告のため措置する注意義務を負つていたという原告の主張はこれを肯認し難いといわなければならない。

原告の本訴請求はその理由がないのでこれを棄却する。

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